真夏 at the hostclub - 後編 - 「ハルヒと幸次郎が奥の部屋へ行ってから、未だ10分程しか経っておらず。 当、桜蘭高校ホスト部部長、須王環はもう限界に近かった。 「ん゛な゛ー!!どれだけハルヒと話し込む気だ!あの月野宮は!!」 「まだ10分程しか経ってないのだろう?」 「10分?!いや、それ以上は話し込んでるぞ!!」 冷静な鏡夜とは、かなり非対称的な環がいた。 『殿ー、五月蝿いよー。別に部室なんだからさ、そんなこともしないだろうっての。』 後ろからダブルサウンドが。 「そ、そんなことってどんなだ!」 「なぁー?」 「ねぇー?」 光と馨は顔を見合わせ頷き合って言った。 『殿の想像する、 あっち系のあーいう ことしかないでしょう?』 環の脳裏で想像が膨らむ。 「いっ、いっかーんっ!!ハルヒー!!///」 一体何を想像したのかはすぐにわかる通り。 「環、考えてみろ。」 ココで冷静に鏡夜が釘を刺す。 「月野宮はハルヒが女なことを知らないんじゃないか?大丈夫だろう」 環、考える・・・。 「なるほどっ!!奴は知らなかったか!キングとしたことが、馬鹿に慌てふためいてしまったっ」 「殿は馬鹿じゃん。」 「馬鹿殿〜」 「はっはっはっ〜☆」 が、光・馨、顔を見合わせ新たに殿を痛める発言を。 『あ、でも、理事の孫なら知ってるかもよ』 ぐさっ。環の胸に何か刺さった。 「そうだな。知ってるかもな。」 ぐさぐさっ。いっぱい刺さった。 「は、は、は・・・・・・ハルヒー!!お父さんは心配だー!!」 「殿、心配性だとハゲルよ」 「ハゲ殿ーっ」 「ハゲー!?」 双子の言葉を信じきってしまう、環であった。 一方、奥の部屋では・・・。 「そうなんでしょ?ハルヒちゃん?」 「・・・・・・・・」 重い空気が流れていた。 部員達が騒いでいることが少々実現しているなど露も知らずに。 最初はフランスのお土産話だったのだがハルヒが素っ気無かった(興味が無かった)ので 次第に話が裏側へ行っていたのだ。 そして今、ハルヒは幸次郎に、「女なんでしょ?」と、問われ、 答えを考えていた・・・。 「悪いけど、僕知ってるから。お祖父様に聞いたんだ。何でこんな部にいるの?」 「・・・・・そ、それはー・・・」 もう既にハルヒは女の子話を知っていたらしく、かなり重い雰囲気だ。 「・・・ってか覚えてないのハルヒ?」 「え、何をですか?」 イキナリ呼び捨てとは、何とも馴れ馴れしい奴と思ったが、怒りを抑え話は続く。 「ホントに覚えてないの??」 「だから何がです?」 幸次郎の表情が一瞬止まった。 「僕の事だよ」 真面目な幸次郎の表情にハルヒは動くことが出来なかった。 どうすれば・・・と考えている間もなく、幸次郎が近づいてきていたが、 「こぉーらっ!!一体どれだけ話して部をサボる気だ!!」 限界をとっくの昔に通り越していた環が部屋に入ってきた。 幸次郎の表情が和らぎ、重い雰囲気も消え、ハルヒも動けるようになった。 この時だけ環に感謝したハルヒであった。 そんなハルヒの胸中には、幸次郎が言ったあの言葉が深く深く焼き付いていた。 それはそれは、扉に耳をピタリとくっ付け外から中の会話を盗み聞きしていた環の胸中にも深く深く・・・。 《僕の事だよ》・・・・。 翌日から環は幸次郎をより一層見張ることにした。 ハルヒは幸次郎にやや警戒しつつも、一応は世話係として頑張る。 なるべく、二人きりにならぬように・・・。 時期がきてしまった。 今日は全校登校日であった。 鏡夜先輩は部長代理で部長の集まりへ、 ハニー先輩は、モリ先輩と共に兼部の剣道部に顔を出しに、双子はハワイの別荘で過ごしているので病欠と言う事で。 環は未だ部に来ておらず。 最悪のコンディション。 部室にはハルヒと幸次郎のみ。 二人っきりの中でも、ハルヒは幸次郎と距離を置きつつ部室のセッティングをしていた。 「ねー、ハルヒ?」 「何?月野宮君」 「つっめたいな〜」 と、後ろを見れば幸次郎の、どアップ。 ハルヒは上目遣いで睨み、 「邪魔。どいて下さい。」 と言い放つ。 が、 「僕の事思い出した?」 と、マイペース君。 「思い出すわけ無いでしょう。本当に誰ですか?てか、単なる理事の孫でしょう?」 「思い出してよ。何時の間にそんな記憶喪失になったわけ?」 「思い出せません。」 「思い出せ。」 「無理。」 いつものハルヒと環の言い合いよりもかなり冷めた言い合いが、こちらで繰り広げられている。 ハルヒが幸次郎からすり抜けて、花瓶の花を整えに行った。 自分からハルヒが離れて行った事を怒った幸次郎は行動に出た。 「いたっ・・・・・な、なにっ?!いったい・・・・・」 ハルヒの腕を掴み自分の方へ引き寄せた。 「もういいよ。思い出させてやるよ。」 「え、な、何?!」 パニくりながらもハルヒは答える。 「日向幸次郎っ。ハルヒ、お前と中学一緒だったろう・・・」 「ひゅ・・・・・うが・・・・・・・・。あっ!コウ!?」 思い出した。 日向幸次郎。 ハルヒの良き男友達だった。 そして、中学の卒業式にハルヒに告白してきた奴でもあった。 「人って名字変わるとそんなに忘れられるもん??」 と、幸次郎は言い、ハルヒの腕を放した。 「・・・・久しぶり。元気だった?て、どうして名字変わってるの・・・」 留学のことは知っていた。 その事も踏まえて幸次郎は一大決心してハルヒに告白したのだから。 「父さんと母さんが離婚したんだよ。母さんに男がいたらしくてね」 「・・・ごめん・・・」 聞いてはいけなかったと思い、謝る。 「いいっての。もう大分前の話しだし。ハルヒ相手なら何だっていいし。」 「あ、そっ・・・・・」 「ってか、何でお前髪切って、しかも男の格好で、こーんな部にいんだよ・・・;驚いたぞ」 と言って、幸次郎はハルヒの頭を撫でた。 「ああ、それは・・・」 「わりぃわりぃ、遅れた〜って誰もいないのか?」 環がやっと部に来た。 軽快な声。 誰の声かと思い、室内を見ると、ハルヒのものであった。 「あ、先輩っ・・・」 あの後、ハルヒがホスト部に入った理由を幸次郎に言ったら、 「・・・ハルヒ、お前なぁ・・・自分で切んなよ・・・」 「ごめん・・・。面倒だったから・・・」 「まぁ、切っちまったものはしょうがないし、今じゃ男の格好だしな。」 「うん。」 名残惜しむように幸次郎が言った。 「あ、でも、お前!」 「?」 幸次郎は思い出したかのように言った。 「相変わらず外見とか、男だの女だの興味ないのか?」 「うん。」 「ハルヒ、お前変わってねーのっ」 「え?昔もこうだっけ?」 「忘れたのか?」 「・・・・・;」 「あははははっ、はははっ」 「ちょ、酷いっ!笑うことないでしょう!!」 そして環がやってきた。 自分が知らない男の言葉で笑うハルヒを見て、環は何とも言えない気持ちになった。 それはそれは、今まで自分がした事の無いような気持ち・・・。 自分とは違う世界。環はそう感じ取った。 「環先輩、何してたんですか?」 さっきまでは明るかったのに、いつもとかわらない口調で話しかけてくる。 いつもとかわらないように接されることに、悲しい気持ちを覚えた。 「ちょっ・・・・と・・・・用事が・・・・あって・・・・な・・・・・・」 「?」 環の様子がいつもと違うことに、ハルヒは気付いた。 「あ、ちょっと・・・・・出てくる・・・・」 「え、ちょ、先輩っ・・・・・・」 がちゃん。 ハルヒは環に問おうとしたのに、部屋を出て行かれてしまった。 目を一度も合わせずに、出て行った環に不審さを感じたハルヒは、 「コウ、ちょっと行って来るっ」 追うことにした。 「あ、ああ。じゃ、留守番してるな」 「うんっ。」 がちゃん。 廊下に人の気配は無かった。 ただでさえ大きな学校。人一人みつけるのは大変のように思えた。 だが、 ハルヒは何かを感じ取り、何かに導かれるかのように走った。 「先輩っ・・・」 その道の先に環が座っていた。 場所は中庭の人気が無く、人目につかないところ。 「・・・・ハルヒ・・・・・」 疑問符しか出てこない環。 いつもなら絶対に何かしてくるのに、何もしてこない環を可笑しく感じたハルヒ。 「捜しましたよ・・・。っても、そんなに捜してないですが・・・」 「なんでここがわかったんだ?」 「自分でも良くわかりません・・・」 「は!?」 ホントに自分でも良くわからなかった。 ただ、何かに導かれるかのように・・・。 「何かあったんですか?」 「・・・・・・」 目線を合わす為、ハルヒはしゃがんだ。 「先輩、明らかにいつもと違いますよ」 「・・・・・・」 「先輩・・・、環先輩・・・」 溜息を一つついて、環は話すことにした。 「ハルヒ」 「はい?」 「女って罪な生き物だよな・・・」 「は?」 「男は、女に振り回されてるだけだよ・・・」 「?」 環はハルヒを抱き引き寄せた。 イマイチ理解できなかったハルヒであった。 「・・・男は辛いよ・・・」 「?」 この男は、こんなことしながら映画のことでも思ってるのかと思うハルヒであった。 「男心も女心も、難しいな・・・」 「でも、その心を、今は解からなくても、いつかは理解するってのが、人ってものじゃないんですか?」 「・・・・・・・」 「自分は、人の心がわかるような、そんな人になりたいです。たとえ、何年かかっても・・・」 心に響く言葉だった。 ある人の中では、人の心を理解する、人になりかけだとは、ハルヒは知りもしなかった。 環はハルヒを放した。 「さて、帰るか」 「・・・家ですか?」 「馬ー鹿。部室だよ、ぶ・し・つ!」 「いでっ」 ハルヒのデコを一突き。 環は元気を取り戻した。 そのころ部室では、幸次郎と鏡夜が仲良さ気に話していた。 「ハルヒのことを好きな奴?」 幸次郎、ビックリ。 「ああ。この部に、約一名いるんだよ」 「お、鳳さん!!誰ですか、そ奴は!!」 「一応、秘密だな」 「教えてくださいよ〜!!あ、じいちゃんに部費のこと、言ってあげるからさ〜!!」 「でも、秘密だ。」 珍しく、お金事で動かない鏡夜かと思えたが、 「だーが、ヒントとすれば、」 「??」 「一番、かな?」 「い、一番??何の一番ですか!!」 「さあな。」 「え〜!!ハルヒの一番?!一番・・・・一番〜っ?!!!何の一番〜っ?!」 悩む幸次郎を横目に。 「ハルヒと環が帰ってきたぞ」 後日、ホスト部部員にハルヒと幸次郎の関係を明かした。 するとお約束の約一名が、驚きすぎて、 倒れた。 二人は付き合ってはいなかった と聞かされて、何とか立ち直った。 仲良くなってしまうと一日一日が短く感じられた。 あっという間に、幸次郎はフランスへ戻り、ホスト部も元通りに戻ったかのように見えた。 が。 環の心境だけは元通りではなく、変化していた。 夏の経験は、人の想いまでもを動かした。 「でも、その心を、今は解からなくても、いつかは理解するってのが、人ってものじゃないんですか?」 「自分は、人の心がわかるような、そんな人になりたいです。たとえ、何年かかっても・・・」 ハルヒの言葉は、未だ、心の奥深くに、永遠に・・・。 今日も外は真夏日だ。 - 終 - author : 衣月円さん
Comment(後編) 前編が短かった為、後編が恐ろしく長くなった気が・・・。 ってか、かなり有り得ない話ですね;;まあ、It's a dream world.ってことで、見逃してください; とにかく、一つの話を終わらせることが出来てよかったです。 あとあと、こんな小説でも続きを楽しみに待っていたという、そこの貴方!! 本当に本当に、ほんっとーに有難う御座いました。 |
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