もしも   -あの日、あの時-


第三音楽室。
ここは彼等の活動場所。
今はまだ、活動前なので、部員達は気楽そうにいるように見えた。

が、微妙に違っていた。

「遅いぞ〜、ハァ〜ルヒィ〜。光!馨!お前等、一緒に来なかったのか!!(許し難いが;)」
「だって、ハルヒもういなかったんだもん。ねー、馨」
「ねー、光。早く来ないかな〜。活動前に遊びたかったのにぃ」
「何ぃ?!いなかっただとっ!!」
ハルヒを待ち焦がれる、部員約3名。環・光・馨。
「僕等が準備できた頃には、荷物とか無くなっててさ。教室中捜したけどいなかったよ」
「じゃ、じゃあ、ハルヒは?!何所へ?!ハールヒィー!!」
「殿〜。耳障り〜。静かにしてよ。どうせさあ、また図書室じゃない?」
「あ。そうだな。」
一件落着かのように思えたが、
『でも』
「でも?!」
『誘拐・・・なーんって』
「ユーカイ?!お父さんは心配だー!!俺の可愛い愛娘をよくもー!!!」
真に受けやすい。
「ハルヒ、可愛い系だもんね〜」
「男の格好してても、性別は女だから可愛いモンね〜」
『ね〜』
真に受けているも関わらず、追い撃ちプレイ。
「・・・・・・!!・・・ハ・・・・!!」
既に、死にそうな顔して、ハルヒの名前も叫べなくなっていた環。
かなり心にきたようだ。


アホアホを放っていたが、ふっと思った。
真面目に考え出した環を見て、
『どしたの、殿?』
「まさか身代金とか考えてるんじゃないんだろーね」
「うわっ、それだったら馬鹿っ」
「・・・・・・・・」
『と、殿?!』
暫く考えた後で、光と馨に言った。

「光、馨。」
『何?』
「もしも、もしもハルヒがあの可愛らしい女の姿で入学してきてたらどうなってたと思う・・・」
『あの、女の姿で・・・』

男3人の妄想劇が今始まった。




今日は桜蘭学院入学式の日。
1−A教室。新入生だけが室内に集められている。
期待と不安のざわめきの中、一つの声が。
「あのコ、可愛いよな」
「何って名前?」
「同い年?」
「ってか、特待生?」
「今日入学するなんて、信じられんくない?」
男子の中だけの話題では無く、女子の中にも。
「あの子、可愛い〜。友達なりたいな〜」
「なんて名前??要チェックしとかなきゃ」
「同じクラスだなんて、信じられない〜」
クラス中の者の視線は全て彼女に注がれていた。

藤岡ハルヒ。

庶民とは思えぬような美しい容姿で注目を集めていた。
綺麗で程よい長さの黒髪、凛々しい瞳、似合いすぎる桜蘭女子制服、まるでモデルのような子だった。
おまけに特待生。何故か秘密にしておいたことだったが、何時の間にかクラス中に広まっていた。
だが、彼女はそんな声も気にせず、黙々と勉強し出した。
「新入生の皆さん、体育館の方へ」
先生の声がかかる。

移動中も彼女は皆の注目の的。
「あの娘、特待生なんだって?」
「うわ、マジ?!」
「ってか可愛い〜」
「マジ惚れる」
「あれはヤバイって〜」
何故か上級生にも広まっていた。

式終了後。

クラスに一旦戻らされた。

ハルヒの周りには物凄い円陣が・・・。
「藤岡ハルヒちゃん??同じクラスの・・」
「押すな、押すなっ!!ハルヒちゃんっ、コッチ向いて〜・・」
「いででででっ、僕っ・・」
「可愛い〜。私、同じクラスの・・」
「彼女可愛いね〜。俺、3年の・・」
かなりの人がいる。
「あの、困るんですけど」
淡々と言うが、誰も退かない。
「真面目な顔も可愛いね〜。桜蘭新聞企画部の者だけど、校内新聞に載せるから一枚っ」
「あ、あの・・・」
「今度遊ばない??コレ、番っ」
「え、えっと・・・」
「うわっ、抜け駆けかよ。これ、俺のアド。24時間待ってるよ」
「ちょ、待って下っ・・・え、あ、あのっ・・・・・」
人間はいなくなったが、沢山の紙切れが。
「はあ・・・」
とにかくカバンの中に入れておいて、勉強し始める。





下校時。


靴箱には沢山の手紙が・・・。
「・・・・・・・何これ・・・」
もはや溢れ出していて、一通落ちた。

翌日からはもっと凄かった。
変な呼び名、『絶世の天才美女・藤岡ハルヒ』など付けられ、
全校中にハルヒのことが知れ渡り、「藤岡ハルヒFAN倶楽部」なども結成されているようだ。
「・・・靴出せない・・・」



その噂は、全校へ。



そしてハルヒと何の縁も無い、ここ、桜蘭高校ホスト部でも。
「環様、新入生の特待生、あれは何者なのですか?私、不安で不安で夜も眠れませんの。確か、絶世の美女だとか何とか・・・」
「姫、御安心を。そんな不届き者よりも、僕は姫が大事ですから。どれほど絶世の美女でも、姫のほうがお美しい・・・」
「環様っ・・・」

とか何とか言っている部長・須王環であったが、実は一度も目にしたことが無かったのだ。


「そんなに凄いのか?絶世の天女、藤岡ハルヒとか言うのは」
『知らないの殿?ってか、「絶世の天才美女」だよ』
「わ、悪かったなぁ・・・///う、うるさい〜っ!!」
『・・・・時代遅れ・・・』
「さっさと言えー!!」
「藤岡ハルヒ、成績常に主席・家柄良くは無い・容姿端麗。10年前に母親が他界した、言わば成績のみでAクラスって奴だ。」
「鏡夜、お前情報が早いな・・・」
「まあな」
不敵な笑みを浮かべる鏡夜氏。
「FAN倶楽部も出来ているらしいよ」
「クラスの男は全員藤岡の方行ってるよ。女子も半分くらい。あとは他学年からいっぱい。」
「へー・・・・。」
何も知らない環であった。
「藤岡ちゃん、凄いみたいだよねー。タマちゃん、知らなかったのー?」
「・・・・・・・・・・」
「せ、先輩方っ」
背後に、モリ先輩に負ぶわれたハニー先輩が。
「ハニー先輩は、藤岡とか言う不届き者、見たことあるのですか?」
「んー。見たことは無いけど、噂ならいっぱい知ってるよー」
「ほー・・・、モリ先輩は?」
「知らん」
「・・・そうですか・・・」
情報収集に励む、時代遅れの殿。


そんなある日。


「すみません、第二音楽室はどちらですか?」
ここは2年教室棟。
どうも男子軍団から逃れていたら、こんなところに着いてしまったようだ。
辺りがキャーキャー言っている。
か・・・・可愛い。何なんだ、この娘は・・・。
環は偶然にも迷子になっていたハルヒと出逢った。
「あの、第二音楽室を・・・」
「あ、すまない。第二音楽室といったかな」
「はい」
「この俺が案内して差し上げ様っ」
いつものようにホストオーラを放ったものの、
「はい。宜しくお願いします。ところで、誰ですか?」
ぴしゃり。
環君にヒビが。
「この俺を、知らないとでも?」
いっちょ、ホスト部魂で迫ってみたが、
「いいえ。全くもって御存知無いです」
効果無し。
環君ショック・・・。
「・・・・・・・!!」
「あの、誰ですか??」
上目遣い。
環君ノックアウト。
「あ、お、俺はだなあ、」
動揺しつつもちゃんと名乗る。
「お、桜蘭高校ホスト部、キングの須王環だっ・・・」
「ホスト部・・・・知らなかった・・・。あ、自分、新入生の藤岡ハルヒです」
「!!」
環君、噂の絶世の天才美女にやっと逢えました。
「あの、早く案内していただけませんか?」
「あ、ああ。すまないっ///」
噂の美女との校内案内プチデートを楽しむ、環。
だが周囲の反応は。



「えっ、環様が絶世の天才美女と一緒に・・・どういうことですのっ!!」
「ゆ、許せませんわっ・・・・・・・環様ぁ〜っ」
「あ、ハルヒちゃんみっけー・・・・・え!?げ!!須王と!?」
「あの二人できてるの?!」
「マジ?!嘘だろう・・・須王じゃ敵わねえよ・・・・」
「は、ハルヒちゃん〜っ!?」
「し、新聞刷るぞ!!」

と、まあ、良くないような勘違いしているというか。




「ところで、ハルヒと言ったかな?」
「あ、はい」
周囲の目も気にせず、会話を楽しもうとする。
「ホスト部の活動場所は、第三音楽室なのだよ」
「は、はあ・・・。」
とか、まあ、遠まわしに誘ってみたりする。
「うちの部には、選り取りみどり、きっとハルヒのお気に召すのもいるかと・・・」
「あの、済みません・・・」
「何だい?」
「ここ、第三音楽室なのですが・・・」
部のことをベラベラベラベラ話していたら、何故か第三音楽室に。
「あ、すっ、すまないっ!!」
「いえ・・・」
格好悪い所を見せてしまい、ちょっぴりショックな環。



「ここが第二音楽室なのだよ」
「あ、ありがとうございます。」
もう第二音楽室についてしまった。
ハルヒはそそくさと中に入っていってしまった。





が、校内案内プチデートの翌日。
桜蘭新聞企画部の校内新聞高等部の一面は・・・。



「噂の絶世の天才美女・藤岡ハルヒ熱愛疑惑!?」
「ホスト部部長、須王環の愛人●号?!それとも本命!?」
「美女はホスト部通い?!」
「周囲の目も気にせず、校内デートを楽しむ模様」
とてつもないスキャンダル・・・。



生徒玄関の掲示板にばばーんっと貼り出されていた。
環も見て驚いたが、ホスト部部員、そしてハルヒも驚いた。

「ハルヒちゃん、あれ本当?!」
「嘘でしょう、あの須王とだなんて」
「ってか、須王に騙されてるよ」
「ホスト部通ってるの?!」
「新聞企画部でーすっ、真相についての聴取に来ました」
朝から、しかも玄関で、色々な意味のガードが固い。
だが、うろたえず、ハルヒはしっかりと言った。

「あれは全て、嘘です。」

「ホスト部に通っているというのは?」
TVの記者会見のように、新聞企画部はカメラを持参し、聴取の為のアナもいた。
「それも嘘です。行った事などありません」
「須王殿との熱愛は?」
「ありません。自分と先輩に接点など御座いません」
環、ガードの外から聞いていた。
「校内デートというのは?」
「迷っていた所を、助けていただいたのです。」
「今言ったこと、本当に事実ですね?」
「しつこいです。本当だって言っているでしょうっ」
そう言って、ハルヒはガードを掻き分け教室へと急いだ。
「ふ、藤岡さーんっ」
一同、ハルヒに付いて行く。
玄関はがらりとする。
環はただただ、その場に立ち尽くしていた。
「環、何をしているんだ」
「鏡夜・・・」



翌日の新聞は・・・。
「全て嘘、絶世の天才美女の言葉」
「絶世の天才美女は、誰の手にも舞い降りること無からず」
「ホスト部など行ったことなどない、先輩との接点など無い」
「新聞企画部、偽りの記事ばかり・・・」
この新聞を読み、生徒は安心。
一部の者の心には少々傷が・・・。



後日、1−A教室では。
円陣が凄かった。

「どいて」
『『はいっ』』
ハルヒも見事に円陣をコントロールできるようになり、スムーズに学校生活を送っていた。


「常陸院君・・・」
『何?』
何を思ったか、ハルヒは光と馨に話しかけた。
光と馨にはクラスの女子の協定で、
部以外では手を出さない・接近しない・近づくな との3つがあるので、彼等には簡単に近づけた。
「光君と馨君て、ホスト部だったよね?」
『うん。そーだけど』
「須王先輩に、【本当に御迷惑おかけしました】って伝えてくれない?」
「ねー、藤岡」
「何?」
「自分で言いに来いよ。」
「須王先輩、喜ぶと思うんだけど。」
「は?喜ぶ??でも、自分が行くと、また色々と噂になるし、ホストって興味ないし」
『来いよ。』
「だから、迷惑になるんじゃ・・・」
二人揃ってハルヒに耳打ちした。




その日の部活終了後に。
『殿、最後の指名だよ』
「は?何を言う、もう部活時間終わりでは・・な・・・いか・・・・・」
双子に押されてでてきたのはハルヒ。
「ほら、やっぱり迷惑そうだよ。帰る」
「何時ぞやの・・・・ハルヒ?!」
「は!何です、いきなり呼び捨てで・・・」
「奥行くか。」
「は」
答える暇も与えることなく、環はハルヒを連れて行った。


環とハルヒが行った後。
「殿、変態〜」
「変態〜。奥で何やらかすか、聞いていよっか」
「そーだね馨」
双子は盗み聞き決行。

ドアに双子がへばり付いているとも知らず、環はハルヒと話す。




「この間は御迷惑おかけして済みませんでした」
頭を下げるハルヒ。
黒髪が共にしなやかに雪崩れる。
「いやいや。もういいのだよ。気にしないで。ハルヒも済まなかったね」
「いえ・・・」
沈黙。
外から見守る双子達は、
「殿っ、いっちゃ駄目だが、男ならいけっ!!」
「馬鹿殿〜、それでも男か〜」
と、小声で見守って(?)いた。
「ハルヒ」
「はい?」
『殿、行くのか?!』(あくまでも小声の、あくまでも場外)

がちゃ。

「環、そろそろ終わりだ・・・・あ、お客様ですか。」
何も知らない鏡夜がイキナリ室内に入ってきて、一同驚く。
「お邪魔しております」
「御ゆっくり」
「有難う御座います。」

がちゃん。

「あ、そろそろ帰らないと」
「もうそんな時間か・・・済まなかったね」
「いいえ」
双子の望んでいたような展開は何事も無く、終わってしまった二人の時間。


この先、二度とこのような時間は無かった・・・。



翌日からは双子がハルヒにべったりだった。
常陸院には敵わない と、円陣も日毎に薄れ、現在は影での活動となった。
だが影でもハルヒ旋風は止むことを覚えなかった。


『殿〜、今日ねー、ハルヒがねぇ〜』
「くっそー!!お前等、よくもハルヒに〜!!」
『変態〜』
「きー!!」


ハルヒ卒業後は桜蘭学院も元に戻り、何事も無かったかのよう。

この3年間でハルヒに告白した人数、およそ300人近く。
平均的に見ても1年に100人。
だが本人は全く付き合う気が無かったので、全員見事に振った。









「って感じじゃない?」
「俺は納得がいかん。」
「でも現実性あるじゃん」
男3人の妄想劇は無事に終わった。
かと、思いきや、講評会が。

「何で俺とハルヒの間に壁ができるんだよ!!」
「でも、殿、」
「妄想のクセして、スキャンダルになって、新聞載って、校内デートして、」
『良い気し過ぎ〜』
「何を!!お前等だって結局最後は!!」
『え〜。でもハルヒ連れて来たジャン〜』
「それは当たり前の行為だ!!」
『え、当たり前・・・』
「光・・・・殿って・・・・」
「馨・・・・うん・・・・・」
「きー!!!」

男3人は、いつもどおりにもどった。

「でもよー・・・」
『ねー・・・』

しかし。共通した想いをもったようだ。

「ハルヒは、男の格好でよかった!」
「女の格好も可愛いけどさ」
「コレが現実に起こってたら、どーなってたことやら」

結局はこう、自分達の特になるようにしか思わない野郎共だった。






「遅れて済みません・・・」
「ハルヒ〜っ!!」
『ハルヒ〜!!!!!』
「!!」
何故か泣いている男3人。
あの後、更なる妄想をしていたようだ。
「ちょ、先輩にっ、光っ、馨っ!!は、離れて〜!!」
ハルヒに泣きすがりつく3人。
「ハルヒーッ!!」
「は、はい??」
『男でよかったね〜』
「一応は自分、女です!!」
「あ゛ー!!男最高〜」
「も゛ー!!離れてってば」
イマイチ事情が飲み込めないハルヒであった。

「とっ、とにかくっ、離れてくださいっ!!あ、助けてモリ先輩〜っ!!」
ひょいっ。
どさどさどすんどすっ。
ハルヒにくっ付いてた男3人がはがれ落ちた。
「一体、何があったの、光、馨、た、環先輩まで・・・」
「それはだなあ・・・」
ハルヒはモリ先輩に担がれながら話を聞いた。






「ふうん・・・・・」
軽蔑の目。
4人は話の途中からテーブルにいた。
「ご、誤解だハルヒ!!」
「スキャンダルですか・・・・・。勝手に・・・。ほー。」
かなりの冷たい視線。
「そ、そんな・・・。光と馨はどーなるんだ!!」
「別に、害無いじゃないですか。むしろ、いつも通りです。」
「・・・!!」
環、ショック絶大。ついでに石化。
「てか、なんで誘拐からそんな話に・・・」
『さあ?言い出しっぺ、殿だし』
「・・・ふうん・・・」
更に冷たい視線が注がれる。
「やっぱ、変態はねぇ〜」
「SMだしねぇ〜」
「サイッテー」
「は、ハルヒ〜!!」






めでたしめでたし(?)
さあ、ホスト活動が始まります。


今も昔も変わらない関係が一番。

ハルヒは男の格好が一番(環・双子が自分達のことだけを考えると)


そして、
勝手な妄想の中のスキャンダルはもう止め様と思った環なのでした。


   - 終 -
author : 衣月円さん

Comment
早くも下手ながら二作目です;
このネタ、一度書きたかったのですよ。殿と双子の妄想劇・・・;(私自身、要注意危険妄想癖人物です)
でも、ホントにハルヒが女で入学してたらどうなっていたのでしょう・・・。
サブタイトル、ついつい続けたくなるんですよね。(♪あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら〜 by小田和正サン;;)


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