「わっ!?」

ハルヒはいきなり背後から目を押さえられた。

「ハ〜ルちゃ〜ん、さぁて誰でしょう?」

「・・・・・・・・」

びっくりしたのもつかの間。

ハルヒは、呆れながら振り返って声を出した。

「ハニー先輩・・・・、バレバレですよ・・?」



13日の金曜日(後編)


「え〜?なんでぇ〜?」

「・・・・・?(何故・・・・?)」

可愛らしい声で不満の声を上げるハニー先輩を、

ハルヒはちょっと微笑ましく思う。

「声で分かりますよ・・」

同時にこの人たちは本当に高校生なんだろうか、と思う。

モリ先輩まで本当に不思議そうな顔をしている。

この人はある意味高校生に見えない。

「でもねぇ、タマちゃんはすごくびっくりしてたよぉ?」

「・・・・・(こっくり)」

「ああ・・・・。あの人は・・・・」

ハルヒはいまだに猫澤先輩に追い回されている環の方を見た。

環はもう限界のようで、ぜいぜいと荒い息をしている。

「二人とも楽しそうだねぇ、崇?」

「・・・・・・(こっくり)」

にこにこと笑いながら、モリ先輩に同意を求めるハニー先輩を見て、

この人達は本当にそう思っているんだろうか、とハルヒは思った。

環の方は、もはや絶体絶命といった感じで、猫澤先輩に

追い詰められている。

ニヤリ、と猫澤先輩が環の方に手を伸ばした。

その時。



パチッ

という音がしたかと思うと、次の瞬間、

部屋中の明かりが消えていた。

「わぁぁっ、何だ!?」

「停電か!?」

「誰か、ブレーカー見て来い!!」

突然の事態に、慌てふためくホスト部と黒魔術部のメンバー達。

ハルヒも突然のことに焦っていた。

「おい!ハルヒ、いるか!?」

「こっちだ!気をつけて来いよ!」

その時、双子の声が聞こえた。

ハルヒはほっとして、声のする方へ行こうとした。

だが、辺りは真っ暗で視界も見えづらい。

もともとこの装飾のせいで、部屋は薄暗かったが、

暗幕を締め切っているため、今の部屋はまるで夜道だ。

仕方ないので、手探りで奥へと進んでいた。

が。

いきなり足場が無くなり、ハルヒの体はがくっと

下に落ちていた。

「わぁぁっ!」

ドサッ

「いでっ!!」

・・・・・?

ハルヒは落ちた瞬間、足の下に何かを踏んづけたような気がした。

「だっ、誰だ!?俺の上にいるのは!」

ハルヒはその聞きなれた声にびっくりした。

「せ、先輩ですか!?」

「えっ?はっ、ハルヒか!?」

穴の中にいたのは、環だった。

どうやら環が先に落ちていたらしい。

「うわ、スイマセン。大丈夫ですか?何でこんな所にいるんですか?」

「俺は、猫澤先輩に追い詰められた時に・・・・。

ハルヒこそ、落ちた時怪我とかしてないか?」

「ハァ。なんか先輩がクッションになったみたいで何処もなんともないです。

スイマセン」

「そうか・・・・」

穴の中はとても二人分余裕ある広さとは言えない。

どうしてもかなり密着した状態になってしまう。

ハルヒはさすがに苦しいので、質問をしてみる。

「先輩、ここ自力で出れますかね?」

「う〜む・・・、難しいだろうなぁ・・・」

環は上を見上げながらそう言った。

穴はかなり深く掘られていて、とてもじゃないが自力での脱出はできないだろう。

「・・・・というか、なんで室内にこんな深い穴が掘られているんですか?」

「・・・・・俺に聞かれてもなぁ・・・・」

環は、内心の動揺を隠すために、無口になる。

今の状態は、環にとってかなり心臓に悪い。

すぐそこにハルヒの顔がある。

激しく動く動悸を隠そうと、環は必死になっていた為、ずっと俯いたままだった。

そんな環の様子を見て、ハルヒは具合でも悪いのかと心配になった。

(もともとこういうのは苦手そうな人だしなぁ)

黙ったままの環を見ながらハルヒは考えた。

さっきの猫澤先輩の時もかなり怖がっていたし、暗くて狭い穴の中は

やはり怖いのかもしれない。

ハルヒ自身は別にこういうのは苦手ではなかったが、環を見ていると

早くここから出なくてはなぁ、ハルヒは思った。

そこで環にある提案をしてみる。

「先輩、・・・大声とか出してみましょうか?」

「えッ!!?わあっ!あ、あぁッ、うん!」

いろいろとやましい考えにふけっていた環は、

いきなり声を掛けられ飛び跳ねた。

「だ、大丈夫ですか?」

心配そうに環を見上げてくるハルヒの顔が、

あんまり近くにあったので環は焦った。

「あ、ああ・・・・・」

穴の中は暗くて良く見えないが、多分自分は今、かなり赤い顔をしているのだろう。

環はこの状況に涼しい顔をしている、天然少女を見ながらそう思った。

一方ハルヒは上の様子に聞き耳を立てていた。

(みんなまだ、この部屋にいるだろうし・・・・)

だが、この部屋はかなり広い。

やはり、人の気配を察して声を出した方がいいだろう。

そう考えたハルヒは、環に静かに、と人差し指を立てると

上の様子を探った。



コツ、コツ

(ん?)

人だ。

誰かの足音だろうと思われるその音は、だんだんこっちに

近づいてきて、大きくなっていく。

「先輩、声出しますよ?」

「あ、ああ」

ハルヒは声を出そうと深く息を吸い込んだ。

その時。

(いかんッ!!!)

「ぶはっ!!」

ハルヒの口は、環の大きな手によって塞がれた。

いきなりの事に、ハルヒは激しく咳をする。

環は慌ててハルヒの背中をさすった。

ようやく咳がおさまると、ハルヒは抗議の声を上げようと

環の方にバッと振り向いた。

だが、環がシーッと人差し指を立てているのを見て、

小声でハルヒは言った。

「いっ、いきなり何するんですか!!人が行っちゃうじゃないですか!!」

「駄目だ!!今、声を出しちゃいかん!!」

ハルヒは呆れてはぁ?、と声を出そうとしたが、

またもや環によって口を塞がれた。

「フガフガフガッ!!(だから一体何なんですか!!)」

「いいから!ちょっと聞いてなさい!」

環が真剣にそう言うのを見て、ハルヒは仕方なく大人しくしていた。

しばらく上の様子に聞き耳を立てていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「須王君・・・・・。いるんでしょう・・?分かってますよ・・・」

「!!!」

ハルヒは驚いて、また声を出そうとしてしまった為、

環に抱きつかれて口を塞がれた。

環は恐怖で涙目になっている。

あれは、紛れも無く猫澤先輩の声だ。

それでそんなにびびっていたのか。

ハルヒは呆れて小声で環に話しかけた。

「先輩!丁度いいじゃないですか、声出しますよ?」

「!!!(ぶんぶん)」

「こんな時に何言ってるんですか!ここから出る方が先でしょう?」

「!!!!!(ぶんぶんぶんぶん)」

環が必死の顔で拒否するのを見て、ハルヒは呆れてしまった。

だが、本当に恐ろしそうに自分にしがみ付いてくる子供の様な姿を見ていると、

さすがに可哀想になってしまった。

(仕方ないなぁ)

ハルヒは猫澤先輩が通り過ぎるまで、待つことにした。









それからしばらく。

部屋の中は相変わらず真っ暗で、穴に落ちたままのハルヒは、

さすがにこの状況が苦しくなってきた。

辺りの様子を伺ってみても、もう足音は聞こえない。

「・・・先輩、もう大丈夫だと思いますけど?」

「えっ?・・・・・・・・・・・・」

ハルヒが小声でそう言うと、

まだ怯えた表情をしていた環は必死で聞き耳を立てた。

辺りに猫澤先輩がいない事を確認した環は、

では、出ようか、とハルヒに言おうとした。

だが。

環は今の状況にふと気がついた。

いままで恐怖のあまり意識していなかったのだが、

今、自分はハルヒを抱きこんでいる形になっている。

(!!)

環の顔が一気に熱を持つ。

黙り込んでいる環を心配し、ハルヒが声を出す。

「・・・先輩?大丈夫ですか?」

ハルヒが上目遣いで環を見上げる。心配そうに見上げてくるハルヒに、

環はたまらない愛しさを覚えた。

腕の中にあるハルヒの体は、暖かくて柔らかい。

環は、このぬくもりに少しだけ甘えていたいと思った。

「・・・・まだだ」

「え?」

不思議そうに聞き返すハルヒを、より強く抱きこみながら

環はもう繰り返した。

「・・・・・まだいるから。もう少し」

一向に離れようとしない環に、

ハルヒは仕方なく、腕の中で大人しくしていた。

環は黙ったままでいる。

ハルヒは、環の肩が小刻みに震えているのに気がついた。

それは、本当は環の緊張の表れだったのだが、

いまだに環が怯えていると勘違いしたハルヒは、

優しく環の肩を叩いて言った。

「先輩?・・・大丈夫ですよ?」

優しく肩を撫でてくるハルヒに、環はたまらなくなって、

ハルヒを真正面に見据えて言おうとした。

「ハルヒ・・・・・・」

「?はい?」

「お、俺は・・・・・・・・」



その時。

「あッ!いた!ハルヒ!」

「大丈夫か?あ、殿もいたの?」

とつぜん上の方が明るくなり、

穴の外から二人を覗き込む、双子の姿が見えた。

「光!馨!大丈夫だよ」

ハルヒは安心して双子に返事を返す。

今まさにいい所だった環は、ガクッと脱力する。

「・・・お前ら、遅いわ!!」

環は苛立ちのあまり双子に八つ当たりをする。

「うるさいなー。助けに来たげただけ、有難く思ってよねー?」

「・・・・てゆーか、二人何してんの」

馨の言葉に、光とハルヒ達がはっとする。

「あ、あッ!!こ、これはだな・・・!!」

「イヤ、穴の中が狭くてこうなっただけだよ」

珍しく環にハルヒがフォローを出す。

環は感動した表情でハルヒを見た。

「ふぅーん、ならいいけどさ」

「ホラ、ハルヒ早く上がんなよ」

二人は面白く無さそうにハルヒにそう促す。

上から垂らされた綱に捕まって、

ハルヒは無事救出された。

双子はさっとハルヒに抱きつきながら言った。

「ハルヒ。殿に変な所触られなかったか?」

「あんなセクハラ大魔王と二人っきりになるなんて可哀想に!」

そう言いながら、二人はぎゅうぎゅうとハルヒを締め付ける。

「ち、ちょっと。大丈夫だってば・・・・」

苦しそうに双子から逃れようとするハルヒを見て、環は慌てて二人に怒鳴った。

「こらぁ!!ハルヒから離れろ!!つーか、はやく綱をおろせ!!」

穴の中からそう絶叫する環に、双子は冷たく言い放った。

「殿はもう、十分良い思いしたんだからいいでしょ」

「だからもうちょっとそこで楽しんどきなよ」

そして二人はどこからか現れた猫澤先輩を穴の中に突き落とした。

「うわぁ!!」

「おや、須王君。奇遇ですね・・・・」

「ぎゃあああ!お前ら、先輩になんてことするんだ!!」

そう叫ぶ環を他所に、二人はにっこり笑ってハルヒの手を取った。

「さ、変態は放っといて」

「行こーぜ、ハルヒ」

「ち、ちょっと・・・・」

双子はそう言うと、強引にハルヒを引っ張っていってしまった。

「こらあああ!!やめんか、お前らぁぁぁぁ!!」

後には絶叫する環と猫澤先輩が残された。



環が救出されたのは、その日の部活が終わってからだったと言う。


   - 終 -
author : どらどらさん

Comment(後編)
うぎゃあああ!(爆死)
恥ずかしくて死にそうです・・・・・・。
環×ハルヒの筈だったのに・・・・・。やっぱり無理でした、スミマセン。
穴の中のシーンは、書いててクサクて死にそうになりました。
というか、死んできます。もう!
本当にすみません!


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