南校舎最上階 北側廊下つきあたり 未使用無人の音楽室 扉の前には── 『桜蘭祭準備中の為、ホスト部閉店中。』 桜蘭祭と環の受難 「あれ?鏡夜先輩、その札何ですか?」 「ああ、これか。見ての通りだが?」 夏休みも明けて、2学期。学校が休みなので、猫澤家私有ビーチの時以外、夏休み中は部活はなかった。 だから2学期になったら当然毎日あると思っていたのに。 「『桜蘭祭準備中の為、ホスト部閉店中』?」 「そうだ。桜蘭祭準備期間中にウチが部活やってると女子が誰も準備を手伝わなくなって進まないらしいんでな。」 桜蘭祭とは、超金持ち学校桜蘭学院の超ド派手な学園祭だ。 初等部・中等部・高等部合同で行われ、その絢爛豪華たるや全国どこにも類を見ない、ともっぱらの噂である。もちろんこの学校の生徒─ただ1人、庶民奨学生のハルヒを除いては─にはごく普通の話ではあるが。 「ハルヒッ!ハルヒは何やるんだ?」 「え?何がですか?」 「クラス発表だよ!お父さんが娘のクラスを見に行きたいと思うのは当然だろう?」 「自分には父は1人しかいませんが。」 「「コスプレカジノだよ、殿」」 双子が声を合わせて言う。 「うむ、そうか!ハルヒはどんな衣装を着るんだ?(ドキドキ)」 「「うっわー、ヘンタイ。」」 「な…ちっ違…」 「…ふーん、…ヘンタイ。」 「違!!」 「ハルヒはネコ服着てビリヤード担当なんだよ。」 「ヘンタイは立入禁止だけどな。」 しかし、この馨の言葉は当のヘンタイ、環には届いていなかった。 「ネコ…(キラキラ)」 「「やっぱヘンタイ。」」 「…ヘンタイ…。」 ハルヒがとどめを刺した。 「ち…違うんだっ、ハルヒーッ!!」 そして迎えた桜蘭祭当日。もともと華やかな校内はさらに美しく彩られ、全国からやって来た一般客で校内はにぎわう。そして1−A前では… 「「ダメ。」」 「ヘンタイは立入禁止って言ったデショ。」 「ハイ、どっか行って。」 やはり光と馨が環を追い返していた。 「ハニー先輩とモリ先輩と鏡夜先輩はどーぞ。」 「じゃあな、環」 眼鏡を押し上げ、にっこりと微笑みながら鏡夜が言い放つ。 「いい子で待っててね!タマちゃん♪行こっ崇!」 そして、環を1人残して全員1−Aに入って行った。 「あー…ハルヒー…」 「わーっ!!ハルちゃんかっわいーっ♪」 「こーいうのも似合うじゃないか」 「…よく似合ってる。」 無口なモリまでもが褒めちぎった。 「だろ?俺らが用意したんだ」 「ビリヤードしよっ!ハルちゃん♪」 「はぁ…いいですけど。でもこの手袋邪魔だなあ…。」 そう言いながらハルヒは自分の手の肉球がついた手袋を眺めた。 「なんでー?カワイイのにー(キラキラ)」 そう言って、ハニーはハルヒを下から見上げた。環がやっても全く効果はないが、ハニーがやると効果絶大だった。 「え…そうですか?」 「うんっ♪早くあそぼーよーっ」 「はい。でもビリヤードする時は外しますね。」 ここで鏡夜が素朴な疑問を口にした。 「何でコスプレなんだ?ビリヤードやるのに肉球のついた手袋してちゃ邪魔だろう?」 もっともな話である。第一ハルヒも邪魔だと言っている。 「ああ、それはウチのクラスに…」 「いやーッッ!!ハルヒくん、手袋とらないでーっっ!!」 ハニーとビリヤードをするために手袋をとろうとしたハルヒに向かって叫ぶ少女が1人。それを見て鏡夜は妙に納得したような顔をしている。 「れ…れんげちゃん…」 1−Aには『うき◇どき☆メモリアル』をはじめとしたゲームオタク、宝積寺れんげがいたのだった。 「ダメですわ、ハルヒくん!この手袋には見て可愛い☆触って楽しいという超重要ポイントが込められて いるんですのよ!?それをとるなんて魅力半減ですわっっ」 そういって手袋をしたままのハルヒに強引にキューを押しつけると、台の方へ引っ張って行った。 「ハルヒくんはとてもお上手なんでしてよ、鏡夜様!」 「本当だな。なかなか上手いじゃないか」 「ハルヒ ビリヤード初めてなんだってさ。もちろん今日までに練習はしたけど。」 「ウチのクラスじゃハルヒが1番上手かったんだよねー。」 「鏡の反射角・入射角と似てますから同じように計算すれば…」 さすがは奨学生である。 さて、その頃全く忘れ去られていたあの人は… 「楽しそうな声がきこえる…」 ヘンタイであるばかりに(?)入室拒否された環は廊下でこっそり聞き耳をたてていた。 「ハルヒーッ!おとーさんはハルヒの晴れ姿が見たいだけなんだよーッおかーさんやおにーちゃん達ばっかりずるいよーッ」 「「あ、殿が叫んでる」」 「実に面白い展開だ」 …バレバレだった。 「!そうだ!部屋に入れないなら強制的に部屋から出させればいいんだ!ホスト部全員今すぐキングのところへ集合ーッ!部発表を行うぞーッ!」 本人、名案を思いついたと思っているが、現実はそんなに甘くなかった。 1−Aの教室から出てきたのは… 「ハルヒ!?せっ…制服!?ネコ服は!?」 「光と馨がヘンタイ先輩には見せるなって言うから着替えてきました。」 グサッ… 「今のはかなし効いたな」 「「ヘーンタイ先輩ーっ♪」」 もはや環は廊下の隅で体操座りをしていじけている。 「あ、殿スネた」 「ヘンタイはほっといてクラス帰ろ、ハルヒ。」 憐れむような目をした鏡夜が環に近づき、ポンと肩を叩く。 「環 おまえがネコハルヒを見る方法を1つだけ提案してやるが、どうだ?」 「…乗った!!」 その瞬間、鏡夜の眼鏡の奥がキラリと輝いたことに気づいた者は誰もいなかった。 「どうだ、環?」 「…これなら…!!」 「わー!タマちゃん女のコだぁー♪」 程よくフリルのついた女のコらしいふわふわのワンピース。美しくしなやかな金髪の長い巻き毛。背の高さとしっかりした骨格が多少気になるものの、物腰の柔らかさでそれをカバーしていた。そこに立っていたのは、少し中性的で、どこか妖艶な美女だった。 「す…素晴らしいぞ、鏡夜!この麗しい乙女の姿なら誰にもバレないはず!むしろどこぞの双子もきっと メロメロになるに違いない!いざハルヒの元へ!」 そう言い残して環は走り去って行った。だからもちろん鏡夜がぼそっと呟いた言葉は聞こえなかった。 「…バカなのは隠せなかったな…。」 そんなことを言われているとは露ほども知らない環は1−Aの前にやってきた。 心を落ち着けてから一般客のフリをして中にあしを踏み入れる。 「「いらっしゃいませー」」 きらびやかな海賊に紛した双子が出迎える。 「何してくー?」 「ビリヤードを」 光の問いにすかさず答える。もちろん声は高めに出しながらだ。 「ハルヒーっ!ビリヤード1名様。台何人待ち?」 「今ちようどあいてるよ」 「ではお客様、どうぞあちらへ」 ビリヤードコーナーに行くと、そこには念願のネコハルヒがいた。 (か…かわいい…///) 思わずハルヒを凝視しながら立ちつくしていると、ハルヒの方もこっちを見ているのがわかった。 そして、おもむろに口を開いた。 「…環先輩?」 「ハルヒ…?わかるのか?」 「え。わかりますよ。」 相手は『どっちが光くんでしょうかゲーム』で100%の正解率を誇る藤岡ハルヒなのだ。女装環を見破るくらいわけないことだったのだが、環は勝手にカン違いをしていた。 (ハルヒが俺だと気づいたのは、もしかして愛の力…!?) こうなるともう止まらない。環はカツラを置いてハルヒのところへ歩み寄り、その手をとった。 「ハルヒ…」 「でも知りませんでした。先輩が父と同類だったなんて。」 「…は…?」 「先輩も女装が趣味だったんですね。」 「ち…違…」 「「…何やってんの?殿」」 「タマちゃんはねぇー女のコになりたかったんだってー。」 「違っ!!」 「先輩、人間 見た目より中身ですから。男とか女とか気にすることありませんよ。」 「ちっ…違───うっっ!!」 「殿ー♪ほーらヒラヒラワンピースだよー!」 「リボンもいるー?」 「いらんっ!」 桜蘭祭終了からこっち、第三音楽室は毎日この調子だった。 「なんでー?女装が趣味なんでしょー?」 「違うっ!あれは鏡夜が…」 「環様ーっ!」 「お写真買いましたわ!とってもお素敵で…」 「写真…?」 部屋に入ってきた女子の1人から写真を受けとる。 そこには最高級スマイルで笑う桜蘭祭の女装環が写っていた。 「…鏡夜…おまえ最初から…」 「使えるものは何でも使わなきゃ損だろう?」 にっこりと微笑んでそう返す姿を見て、鏡夜の恐ろしさを心に刻み込んだ部員達であった。 - 終 - author : ういかさん
Comment 初投稿です。すみません…。 桜蘭学院の学園祭ってどんなのかなーって思って作ったんですが、いつの間にかこんな話に…。 これでも私は環好きなんですよ? 何だかハルヒのセリフが少なく、やけに鏡夜の出番が多い話になってしまいました。 こんなものを最後まで読んでくださった方、ありがとうございました! |
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