ギイィと重い音を立てて、扉がゆっくりと開かれる。双子に手をとられ
中に入ると、まっすぐに敷かれた 赤い絨毯の先に、王冠と杖が飾られた
台座が置かれていた。それこそ、アリス女王となる証。


不思議の国・狂想曲 最終章


 あの豪華な外装に負けないほど、城内もきらびやかで王族の建 物の雰囲気を
漂わせている。しかし…その中には召し使いやトランプの兵士など、お馴染みの
キャラク ターの姿は全く無く、閑散としていた。ハルヒは寂しい城内に疑問を感じた。
「ねぇ。お城の人は誰もいな いの?王様は?」
「王様?王様はおろか、お城には誰もいないよ」
ダム・光は素っ気無く答える。ディ ー・馨もへらへらしながら、
「そうそう。いるとしたら、ナルシストで王様気取りのナイト様だけ!」
「はぁ。それってもしかして…」
質問しようとしたハルヒだったが、王冠と杖の飾られた台座の前へ辿り着 いて
しまったので、話が遮られてしまった。
『さぁハルヒ。女王の証を手に!』
双子に勧められる ように、ハルヒは王冠を手に取り、頭へと乗せる。
先端にハートを象った金色の杖を手に取るや否や、双子 はポケットから紙吹雪を
出して、ハルヒの頭の上からまんべんなく振りまいた。
『おめでとう!』
紙吹雪を髪に受けながら、ハルヒはとりあえず作り笑顔を浮かべた。
(はぁ。これで、これで元の世界へ帰 れるんだ)
内心ホッとしながら、早速ハルヒは元の世界へ帰れるようにと強く念じる。
そんなハルヒの 傍らで、ダム・光とディー・馨は嬉しそうに騒ぎ出す。
「さぁディー!お祝いパーティーの準備だっ」
「そうだねダム!早速ごちそうを持ってこようっ」

ゴロゴロゴロ…

『「はい?」』
突然鳴 り響く重低音。ハルヒと双子は顔を見合わせて動きを止めた。
同時に、明るかった城内が暗くなっていく。 見ると、みるみるうちに城の天井を
黒い無気味な煙(雲?)が立ちこめ始めているではないか。それを見た 双子が
青ざめた様子でそれぞれ叫んだ。
「た、大変だ!ジャバウォックが来たーっ!!」
「ジャバウ ォックが、アリス女王を食べにきたんだよーっ!!」
「えっ!?何なんですかソレはーーっ!?」
双子の台詞 に、ハルヒも青ざめて驚愕と恐怖の叫びをあげた。刹那、黒雲―ジャバウォック―
から、凄まじい突風が吹 き荒れ、双子をどこかへ吹き飛ばしてしまった。
『うぅ〜〜わあぁ〜〜!!…………』
「あっ!光!?馨!? 」
思わず素で叫んでしまったハルヒだが、今度は自分が危険な番である事に早く
気付くと、逃げようと 城の奥へと駆け出した。だが、城内の天井を覆う怪物からは
逃げられるはずも無い。逃がすまいと、ジャバ ウォックの体から激しい音と共に雷光が
放たれ、ハルヒの周りに閃光が降り注いだ。
「うわっ…きゃあ ああーーっ!」
いつもは図太い神経のハルヒだが、唯一の弱点は雷だった。自分の周りの床が焼け
焦げ るのを見て、震えながら耳を塞いでしゃがみ込んだ。
(も、もうダメだぁー…)
弱気になって涙ぐむハ ルヒに、今度は強烈な雷光が……。

ピカァッ…シャキイーーン

が、いつまでたっても一撃が落 ちてこない事に気付き、ハルヒは恐る恐る目を開けた。
そこには…純白のマントをなびかせて立ちはだかる 1人の美少年の姿が。
「大丈夫ですか、女王様?」
「あっ…!す、須王先輩!?」
そう、そこに立っ ていたのはホスト部部長(キング)の須王環!その格好は、純白の
甲冑を纏い、さながらナイト(騎士)の 出で立ちだった。
しかし彼は、ハルヒの問いかけに笑みを浮かべながら優しい口調で答えた。
「いいえ 。私は女王をお護りする『白の騎士』。貴女様をお護りするために遣え、
この危機に駆け付けたのです。ど うか、御安心を……」
本物の環よろしく、甘くてキザな台詞を言いつつ、ハルヒの手の甲にキスをした。
(全く…どこへ言っても変わらないなぁ。この人は)
思わず苦笑するハルヒだったが、何故か心の底から安 心できた。
 ナイト・環は踵を返すと、天井を覆うジャナウォックに向かって叫んだ。
「ジャバウォッ ク!アリス女王に仇なす者は、この俺が許さん!!」
怒りに満ちた叫びと共に、彼は腰の柄から剣を抜く。研 ぎすまされた剣尖が光り輝く!
渾身の力を込めてナイト・環は大きく剣を降り下ろす。
「消え去れっ!!! 」
次の瞬間、黒雲が大きく裂け、まばゆい光が城内を照らした。


 ハルヒが目を開けると、城 の天井を覆っていたジャバウォックは跡形もなく消えていた。
どうやら、ナイト・環が、あの怪物は退治し たらしく、城内も元の閑散とした静けさを取り戻していた。安心するハルヒの手を、ナイト・環が微笑みながら
そっと握り、座り込んでいた彼女を立ち上がらせた。
「お怪我は、ありませんか女王?」
「え、ええ。 どうもありがと…」
ハルヒは礼を言い終える前に、ナイト・環の腕の中にふらりと抱き締められていた。
「ちょっ…!?セクハラはやめてくだ…」
「…申し訳ありません。愛しい貴女様が無事で、私も、心の底から 嬉しいのです」
決してお世辞や決まり文句では無い、文字通りに心の底からの本音。
その言葉を聴いた ハルヒも、反射的にナイト・環の背中に手を伸ばす。
「あ、あのっ…」
おそらく、今の自分の顔は赤く なっていると思う。

(ああ…そうか。自分は、最後までこの人を見れなくて不安だったんのだ)

もしかして、これは?
そんな思いが交錯する中、顔を上げたハルヒの目に、ゆっくりと近付く環の顔が…… 。



「むにゃっ?」
 突然現実に引き戻されて、ハルヒは顔を上げた。
周りを見渡すと 、そこは使い慣れた桜蘭高校の図書館。
男子の制服姿の自分を見て、ハルヒは今まで見てきた物語は、夢で ある事を理解した。
「何だか…リアリティー溢れる、凄まじい夢だったな」
思わず感心していたハルヒ は、腕時計の針を見て部活動の開始時間を過ぎている事に
気がつくと、大慌てて荷物を片付け、図書館を後 にした。

 南校舎の最上階。北側廊下つきあたりの、未使用無人の第3音楽室。
そこがハルヒが所 属しているホスト部の部室であった。ぱたぱたと急ぎ足で辿り着き、
彼女が扉を開けると…

『『『 『『『いらっしゃいませ!』』』』』』

そこには不思議な国の住人が揃って待っておりました。

「…っ!?」
ハルヒの脳裏に、先程の夢の光景がフラッシュバックする。
そう、彼女の目の前には、あの 夢の中で出てきた通りの、アリスシリーズの格好の
ホスト部員がいたからである。驚く間も無く、彼女を一 喝する白の騎士の格好の、環。
「コラッ!ハルヒ!!また遅刻したなっ。部活動は始まっているぞ!?」
( 正夢、というのはおかしいかな?)
それとも、あの夢はこのホスト部の新企画の予知無だったとでも言うの か?
戸惑いつつも、ハルヒは彼等の姿をじっと見た。そんな彼女に、環が一言。
「ハルヒ。お前の衣装 もちゃ〜んと用意してあるから、早く着替え…」
「まさか『アリス』、じゃあないですよね?」
(ぎく っ!)
その瞬間、環(と双子)の顔が凍り付く。どうやらその気だったらしい。
溜め息をつきながら、 ハルヒは憮然と答えた。
「あのですねぇ…。ホスト部の“俺”が女装したら、仕事する意味が無くなります が?」
「だーかーらーっ!オンナノコが俺なんて言っちゃあいけません!!」
泣きながら反論する環に、 ハルヒは更に溜め息をついて試着室へ去っていった。


 結局、彼女は(鏡夜が予備で作ってくれた )三月ウサギの衣装(ハニーの白ウサギと
同じだが、付け耳を茶色く色替えしただけ)を身に付けた。更衣 室から出てきたハルヒを
みて、白ウサギの格好のハニーが可愛らしく話しかけてきた。
「ウサギのハル ちゃん可愛い〜!ボクもうさちゃん姿、似合う〜?」
ハルヒは先程の光景を思い出して感想を述べる。
「やっぱり先輩の方がウサギの格好は似合いますね。でも…イメージ的になら、
スポーティーにならないほ うが、もっとカワイイですよ」
「…うん?」
きょとんとするハニーを横目に、今度はグリフォン姿のモ リに話しかけた。
「モリ先輩。その姿ではばたけたら…きっと雄々しくて素敵でしょうね?」
「…(空 を、飛ぶ?)」
モリが一瞬驚いた表情を浮かべた事に、そう告げて去っていくハルヒは知らない。

ハルヒは、帽子屋の格好をした鏡夜に、今日の内容を訪ねた。
「鏡夜先輩、今日のシリーズの発案は誰が ?」
「あぁ、環だよ。珍しく童話を読んでアイデアを思いついてね。……あらかじめ
デザイナーに頼ん でおいた衣装と一緒に、テーマの童話を見てもらって正解だな」
…やっぱりこの人は影の王だ。ハルヒは心 の奥でそう思った。
「ところでハルヒ。美味しい紅茶を仕入れたんだ。試飲してみるか?」
「借金にプ ラスする、というオチがなければ喜んでいただきますよ?」
「…っ?!…ハルヒには参ったよ」
ハルヒの 用心深いツッコミに、鏡夜は観念したらしく、苦笑いを浮かべて紅茶を
ティーカップに注いでハルヒに手渡 した。
早速飲んでみると、やはり夢の中で飲んだ、あの美味しい紅茶だった。

「どうハルヒ?」  ダムを気取った光が訪ねてくる。
「似合ってる?」 ディーを気取った馨も訪ねてくる。
(やっぱり、 この二人はこれしかないなぁ) ハルヒは素直な感想を心の中で呟く。
「でも二人とも。『どっちでしょう ゲーム』をする時は、お客様を騙すマネだけは
しないでね!きちん真面目に楽しくやってよ?」
『…へ っ?』
ハルヒの思いがけない忠告に、光と馨はお互い不思議そうに顔を見合わせた。


 最後に 、ハルヒは未だに落ち込んでいる環に近寄ると話しかけた。
「先輩。いつまで落ち込んでいるんですか?」
「……」
「もうすぐお客様がいらっしゃいますから。シャキっとして下さいよ!」
「……ぷす〜」
自分に注意されて、ワザと拗ねて見せる環を見て、
(せっかく似合っているのに。子供っぽいなぁ〜…)
ハルヒは苦笑する一方で、先程の夢を、自分を助けた環のあの光景を思い出した。

ここは現実。だけど 醒め切らない夢の中……あの時の貴方は。

「……カッコよかったですからね?」
「………へっ?!」
「あっ…!」
思わず口に出してしまった、夢の続きの本音。
過去形の言葉だった事に気付かなかったと は言え、褒められた環は、そしてはずみで
褒めてしまったハルヒも驚いて言葉を失った。お互いに、頬が赤 くなる。
「いや、その…。とにかく!もうすぐ時間ですから、ね?」
「あっ、ああ?そうだな。ではお 客様をお迎えするとしよう…」
そそくさと去っていくハルヒ。その後ろで……環はいまだ赤い顔を手で隠し ていた。

やがて、常連のお客様が喜びの笑顔や声と共に現れた。

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ここは不思議の国ですか?
いいえ、これは現 実の世界。
本日のアナタは……誰を指名しますか?


   - 終 -
author : ユメサンゴさん

Comment
不思議の国のお話…完結!あぁ、自分の首を締めてばかり
でしたが、ちょっとだけ安心です。ジャバウォックは、
ハルヒの苦手なモノ=雷をイメージ。最後の最後で、
本命の(笑)環を登場させることができました。
(さり気なく環×ハルヒも入れてみました/どきどき)
夢オチ?→現実でもホスト部が!?という2弾オチですが
いかがでしたでしょうか?


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