そして小さな口付けを


「先輩?」

目の前にあったのは幾分幼い顔立ちの少年。
いや、少女だ。
しかも自分のよく知る。

身じろぎすると「動いちゃ駄目です」と咎められ、また元の場所に戻ってしまう。
そして、ここが保健室のベッドの上だと言うことに初めて気がつく。

「えーっと・・・」

何でこんな事になってしまったのか記憶をたどろうとするがどうにも思い出せない。
そういえば、頭が少し痛むような気がする。

「足を滑らせて頭を打って・・・気絶したんです」

ハルヒが申し訳なさそうに言う。
それが自分を責めているように見えたのは、きっと気のせい?

「いや、お前のせいではないだろう?」

「いいえ!!自分がこぼしてしまった水をもっと早く拭いていれば・・!!」

緩い笑顔で言うが強い言葉に押され、黙ってしまう。

「自分が・・もっと早くふいていれば・・」

そういって自分を責め続ける彼女の姿が痛々しくて

「先輩にケガさせることなんかなかったのに・・・」

その言葉に環はハルヒを見た。

「・・・っ!!」

目があった瞬間、顔を紅くし、口元を手であわてて押さえる。

「ハルヒ・・・・」

「なっ何でもありません!!」

そういって顔を逸らすが耳まで紅いのがバレバレ。
いつも自分には素っ気ない態度をとるこの少女がここまで動揺している姿を見るのは正直言っておかしかった。
しかも自分のことで。

しかし、いつまでもこの状態は流石に辛いのでハルヒの一回りも小さなその手をそっとにぎった。

「・・?」

今まで顔を逸らしていたハルヒが不思議そうにこちらを見る。

せっかくの二人きりなのに、何も出来ないのでは何とも言えない。
そういえば悪寒がするような気がする。
気のせいかと思ったがどうもそうではないらしい。
今更のようだが風邪らしい。
どうりでここ二、三日体調が悪いような気がしていた。

舌打ちしたい気分だったが環はそれを効果的に使える方法を思いついた。
我ながら良いアイディアである。
そう心の中で言いながらそっと手を握る力を強めた。

「先輩の手・・冷たいですよ・・?」

察しのいいハルヒは環の体調の悪さにすぐ気付き心配そうな瞳をこちらに向けた。

「あぁ、どうやら風邪引いたらしいんだ」

「え・・?」

「だからさ、ハルヒ」

「え・・?うわっ!!」

強引にハルヒの腕を引っ張りベッドの中に入れさせた。

「ちょっ先輩っ・・・!!」

流石に怒ったのかじたばたと自分の胸の中で暴れたが少し力を入れてねじ伏せただけで叶わないと思ったのか抵
抗をやめ、おとなしくなった。

強引だけど、この方法しか思いつかなかった。
せっかくの二人きりを無駄にしたくなかったし、彼女が自分を思う気持ちを無駄にしたくはなかった。

「眠い、寒い、寂しい」

子供のようなせりふを笑顔で言いながら細い身体を抱く腕を強めた。

「だからってっ・・・んっ・・」

未だ抵抗する唇をそっと己の唇で塞いだ。

自分より仄かに高い体温が心地よかった。

そっと唇を離すと少し潤んだ目でにらまれたが、おずおずと背中に腕が回されるのを感じた。

「・・・・・今日だけですからね」

「さんきゅ・・・」

恥ずかしいのか胸に顔を埋める少女の髪に小さな口付けを施した。
それは二人にしか分からないほどの小さすぎる口付け。


   - 終 -
author : 切符久遠さん

Comment
相変わらず閉め方がへたくそです。(笑)
最近タマハルばかりですね、すみません・・・・。
感想なんかいただけるとむせび泣きます。
でわでわ


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