「あの〜、こちらが女王候補のためのチェックポイントですよ…ね?」
「はい、コチラで紅茶を飲んで頂い た方に、スタンプを差し上げてます」
ハルヒの問いかけに、爽やかな笑顔で語る鏡夜だが…何か「ウラ」が ある
ような笑み。ハルヒは、とてつもない嵐の予感を感じた。


不思議の国・狂想曲 中編


 ハルヒは恐る恐るティーカップを手に取る。見たところ普通の紅茶に見えるが。
もし迂闊に飲んで、体に 異常が起こったらどうしようもない。
怪しがって、紅茶を口にしないハルヒを見て、帽子屋・鏡夜は優しく 告げた。
「大丈夫ですよ、お嬢さん。変な仕掛けなど入ってませんから」
「それなら良いんですが」
品の良い香りがする紅茶を、ハルヒは意を決して飲んでみる。ストレートな事も
あり少々苦かったのだが、 とても美味しい紅茶だった。
「…おいしい」 思わず正直に感想を述べるハルヒ。
「そうでしょう?そ う言って下さると、私も嬉しいです。おかわりはいかがです?」
ティーポットを片手に、おかわりを勧める 帽子屋・鏡夜だったが、ハルヒは先を
急ぐ事を考えて、丁寧にお断りをした。
「いえ、結構です。どう も、ごちそうさまでした。じゃあスタンプを…」
「はい。ではその前に紅茶代の5万円を頂きますね?」
「……はいっ!?」
ハルヒは驚きの余り、思わずティーカップを落としそうになる。冷や汗が滝のように
流しながら、彼女はニコニコする帽子屋・鏡夜にしどろもどろに訪ねた。
「え?だ、だって…あの…カード には『飲んで下さい』と書いてあったから…」
「でも『無料です』とは書いてなかっただろう?」
悪魔 の笑みで話す彼を見て、ハルヒは「やられた!」と後悔するが、既に遅し。
ハルヒは自分の財布を出そうと 、体を手探りで確かめるが…財布はおろか、所持品
1つとして見当たらない(いや、財布があっても払える 額は無いだろう/笑)。
「あ、あの〜。…自分は、その……財布が「無い」のですが…?」
「あぁ、困 りましたね…。お金を払って頂かないとスタンプは押せないですよ?
それ以前に、無銭飲食とは…。本当に 困ったお客さんだなぁ」
溜め息をつきながら話す帽子屋・鏡夜だが、目が微かに楽しそうに笑っている。
冷や汗が止まらないハルヒに近付いた彼は、人差し指で彼女の顎をくいっと上げると、
「それなら、体で払 ってもらうとしましょう」
(ひいいぃぃぃ〜〜〜〜!!)
まずい!どうしよう!?本当に売り飛ばされそう だ。ハルヒの顔が一層青ざめる。
そんな彼女を楽しそうに見ていた帽子屋・鏡夜は、思いついたように声色 を変えた。
「…海亀のスープが飲みたくなったな」
「え、えぇっ!?」
「だけど俺はここを離れるわ けにはいかないからな。代わりにキミが材料をもらって
来てくれないかな?そうすれば、紅茶代の5万を払 った事にしてあげよう」
「…あの、海亀のスープは条約で禁止されている代物ですが?」
「ははは。コ コでそういう事を言うのは愚問だよ?」
眼鏡を直しながら笑顔で告げる帽子屋・鏡夜。それを言うと身も蓋 も無い。
(鏡夜先輩は、どこへ行ってもクセがあるなぁ…)
 とにかく、自分の身の安全が確保される なら救いというものである。ハルヒは彼に
地図をもらい、目的地の海辺へと足を向けた。



 森を出て、再び草原の中を地図を頼りに歩くのだが、なにせ遠い。30分近くかけて
歩き、遠くに砂浜を確 認する。波の音とともに、潮風が鼻をくすぐる。
「何か、先輩がおつかいを頼んだ理由がわかる気がする… 」
 疲れを感じながらも、ハルヒは海辺へ到着した。砂浜を歩いていたハルヒの頭上を、
ばさり大きな 羽音と共に、大きな影が横切った。
「えっ?…うわっ…」
風と共にその影はハルヒの前で着地する。最 初は海鳥かと思っていた彼女はその正体が
人である事に驚いた。羽に覆われた服に背中の雄々しい翼、金色 に輝く毛皮のズボンを
履いた人物は、眼下のハルヒをジッと見下ろした。
「モリ先輩?」
「…グリ フォン」
ハルヒの問いに、モリこと銛之塚崇、いや、グリフォンはぼそりと答えた。
グリフォンと聞い て、ハルヒは再び地図のメモに目を通す。そこには、
【食材仕入れ業者のグリフォン様から、材料を頂くよ うに】
と、書かれていた。ハルヒは改まって話しを持ちかける。
「あの〜グリフォン…さん?帽子屋さ んから海亀のスープの材料を貰ってくるよう、
使いを頼まれた者なんですが?」
「…(こくり)」
 グリフォン・モリは頷くと、岩に囲まれた砂浜へと飛んで行く。よく見ると、
海辺なのに小さな冷蔵庫が 置かれており……そこを開けて中から何かを取り出す。
それを、これまたハルヒが現実世界?でよくお世話 になっているスーパーの袋に入れて
戻ってきたグリフォン・モリは、無言のままその袋をハルヒに手渡す。
その中には『海ガメ20%使用(残りは国産和牛の肉&ダシ)スープ』と記された、
中ぐらい大きさの缶詰が 1個。
(…確か、物語に出てくる『エセ海亀』って、元々仔牛を使って作る、ニセの海亀の
スープをヒ ントに生まれた生き物だったっけ?筋は通るけど…矛盾した製品だなぁ)
しかも、食材と言うわりには既製 品だったりして、ハルヒは気が遠くなりそうになる。
だが、呆然としている暇はない。一刻も早く食材を渡 さないと、次のステップすら
進めない。それではと御礼を述べたハルヒを、グリフォン・モリが止める。
「えっ?あの、自分は急ぐので…」
「…送っていく」
「えっ…って、うわあぁっ!?」
 次の瞬間、 ハルヒの体は大空高く舞っていた。グリフォン・モリに抱きかかえられ、
先程の白ウサギ・ハニ−に負けな い速さで飛行していたのだ。
(うわっ…今来た草原ってこんなに広かったのか)
高速の視野とはいえ、 上空から眺める不思議な世界。その世界観に驚いている間もなく、
二人は帽子屋のいる森の一軒家へと到着 した。

「おや?おかえり。早かったじゃないか」
帽子屋・鏡夜は、グリフォン・モリと共に帰って きたハルヒを笑顔で迎えた。
ハルヒはモリに御礼を言うと、帽子屋・鏡夜に食材(缶詰1個だけ)の入った 袋を手渡す。
「はい。これでスタンプを押してもらえますよね?」
「もちろん。約束通りに押しましょ う」
笑顔でそう告げると、ハルヒの持っていたスタンプカードに、ぽんと印を押した。
(あと2つかぁ 。苦労しそうだな)スタンプを見て、ハルヒは溜め息をつく。
「では、これで失礼しま…」
「…待って 」
行こうとしたハルヒを呼び止めたのは、グリフォン・モリであった。彼はハルヒから
スタンプカード を貰うと、懐からスタンプを出して、新たにぽん!と押した。
「えっ!?」
「おや?知らなかったのかい 。グリフォンさんもスタンプの番人なんだよ。もっとも
本来なら2番目以降は自力で探すルールだからね。 君は特別運が良かったな」
帽子屋・鏡夜が説明する傍らで、グリフォン・モリはそっと微笑んだ。
そう いえば、監査員、兼、案内係と言っていた白ウサギ・ハニーは、最初のチェック
ポイントを教えてくれただ けで、あとは何も言わなかった事を思い出した。
それだけ、このイベントは重要で、且つ困難だということ なのだ。
「そうでしたか。自分はこれで失礼します。ありがとうございました!」
「「幸運を」」
頭を下げるハルヒに、二人は揃えて激励の言葉を送った。



 森を抜けて、ハルヒは当てもなく 歩き出す。帽子屋が言う通りなら、ここからは
自力で最後のチェックポイントを探さなければならない。
「まず、あのお城を目指してみるか。ヒントがあるかも」
独り呟いたハルヒが、ハートの城へ向けて歩き出 した時である。
遠くから車のエンジン音が。最初は空耳かと思ったが、自分の目で車の輪郭を見た
瞬間 、ハルヒは身の危険を感じてその進路上から退いた。刹那、ぶぉんとマフラー
から排気ガスを吐きながらハ ルヒの前を通り過ぎた車は、途中でブレーキをかけると、
そのままバックをしてきて彼女の前で止まった。
草原に赤いフェラーリ。あまりに似合わない光景である。
「あら?ごめんなさいね。気品が感じられないも のだから、景色に紛れ込んでいる
アナタがよく見えなかったのよ。」
運転席に座っていた人物は車から 降りようともせず、反省の色が全く無い声で
ハルヒに謝る。それは、高飛車な態度の喋り方の、あの綾小路 嬢であった。


   後編→
author : ユメサンゴさん

Comment
妄想小説第2話(笑)。
悪代官っぷり発揮の鏡夜と、寡黙でも心優しいモリが登場。
海亀のスープ→エセ海亀の誕生は、私が聞いて知っている
設定を使いました。最後に、綾小路嬢が車に乗って現れま
したが、気にしないで下さい(滝汗)。

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